マツオの音にあふれる日々

音楽にあふれる日々を記します

上原ひろみ/VOICE

ヴォイス(初回限定盤)(DVD付)

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私の一番好きな曲、いや好きというより、なんか運命みたいなものを感じている曲が、上原ひろみのspiralという曲です。
そんな彼女の新作が届きました。


今回は、またトリオに挑戦した作品です。
spiralがトリオ編成で作られた曲だったので、今回はどんな曲を届けてくれるのかと、かなり期待していました。
最初はコンポでじっくり聴いてみようと思い、CDから聴いてみました。
音の迫力や強弱みたいなものを感じやすいと思ったので。
色々な作品を出して、色々な場所へライブに行って、私生活では結婚して、そんないろんな経験をしてきた上での今の上原ひろみが奏でている音、それが今回のVOICEという形になったという風に受け取りました。


彼女にとってspiralとは、どんな作品なんでしょう。
あまりにも完成度が高すぎて、あの作品が彼女の最高傑作であるという評価を多く見受けます。
私も、彼女の作品はほとんど聴いていますが、spiralほどのエネルギーを感じるという作品はあまりありません。
特に、spiral以降の作品については、エネルギーを感じれど、どこか物足りなさを感じていました。
spiralが最高傑作かどうかは分からないですが、あれを超える作品をいつ作ることになるのかをずっと気にかけていました。
そして、今回のVOICEを聴いて、感じたんです。
彼女は確実に成長している。
けれど、今回の作品はその成長の過程の一部でしかないと。


今回のVOICEの中で、印象に残った曲がLabyrinthという曲です。
spiralは真っ白なキャンバスや、スタートというイメージが私の中にあるのですが、このLabyrinthは、色彩や旅というキーワードが浮かんできました。
全体の流れというよりかは、一つ一つの音に意味があって色が付いているような感じがしました。
そして、彼女がライブで世界各国を旅して得た経験が、音となって表現されているようにも感じました。
今、spiralから旅立って自分の成長を音で表現している、全速力で、おしゃべりしているみたいに。
まさに、今、この時にしか弾けない音を奏でていると思ったのです。


演奏の部分でも成長されたとライナーノーツにも書かれていましたが、その通りだと思います。
喜びとか悲しみとかだけじゃないグレーな部分も全部ひっさげて、全身全霊で表現している。
白か黒か、はっきりした音を奏でるのは簡単だと思うのです。
けれど彼女はグレーな部分、多種多様なものも含めて表現しようとしているし、表現しきれているなと。
自分の思っていることを伝えるのって結構難しいものだなと、最近しみじみ感じている今の自分だから感じたことなのかもしれません。
言葉ひとつでどっちにでも転ぶ意味、言葉ひとつでは言い切れないジレンマ、そんな前提があっての、7分40秒に込めた思い。
しかもそれを音で表現することの、さらなる難しさ。
今の勢いのある彼女だからこそ、旅をしてきた彼女だからこそ、作れた作品だと思うのです。


でも、ふと思ったのです。
晩年の彼女が弾く曲はどんな曲だろうと。
そう思ったときに、この曲は若い、今、だからこそ弾ける曲なんじゃないかなって。
きっと、テクニックとかも含めて、晩年の彼女がこのVOICEの曲たちを弾いている印象というのは、正直湧きませんでした。
だから、成長過程の一部なんだと思うのです。
でも、この曲を作り出したことや、ここ数年はたくさん弾くであろうこの曲に、彼女をさらに成長させていく要素はたくさん詰まっていると思います。
避けては通れない道というか、必ず通らなければいけない道を、彼女は確実に歩んでいて、いつかspiralを超える作品を作ることができると、この作品を聴いて確信しました。


私が知っているなかで、彼女ほど、音楽からパワーを感じるというアーティストはいません。
彼女の成長をリアルタイムで共有できていることに、いつも感謝します。
聴こうと思えば、生で聴けることができるという環境にも。
一生を通して聴いていきたいと思うアーティスト、上原ひろみ
その彼女が、今だから放つことができた、VOICE。
だから、今、聴くことに意味があると、私は思います。